プロンテラからの帰り道、イズルードの橋のたもとで、ぎんは沢山の人とすれ違いました。みんな飛行船から降り立った人達です
そーいえば、最近 ドコかの国との国境が開いたのだっけ?
ここ数日、飛行船乗り場は大賑わい。旅先の珍しい話を楽しげに語り合う様子に、ぎんはうらやましげに振り返ります。
そう、ぎんは 飛行船にあまり乗ったコトがありません。
だって、飛行船に乗る必要がないのです。
お買い物は国内で済むので、いつもカプラ交通社か、港から出る船を利用。狩りも、そんな遠くへ行けるほど強くもないし・・・
初めて飛行船が運航した日、お姉ちゃん達に勧められてジュノーにいったっきり。あとは何となぁく遠慮していました。
ジュノーから乗り換えて、もっと遠くの国や街・・・
飛行船、楽しかったなぁ(^^*) 二番目のお姉ちゃん、モン姉ちゃんがステキなプレゼントを持って ぎんの帰りを待っていました
「飛行船の乗車券。お手伝いをしたお礼に貰ったからあげるよ」 無料招待券と印刷されたチケット、四枚綴りです。
「コレって、ぎんが好きなふうに使ってもイイの!?」
「うん、たまには遠くへお出掛けしておいで」 遠くの街ってドコへ行けばいいかしら?
そういえば、今日すれちがった人達が口々に
リヒタルゼンって言っていた
そうだ、ぎんもリヒタルゼンって行ってみたい 次の日、お出掛けの準備をするぎんの横で、一番上のお姉ちゃんがリヒタルゼンのコトを教えてくれました。
「リヒタルゼンはね、大きくて近代的な街なんだけど、反対側の住宅地には行かないでね?」
「どーして?('_'*)」
「人さらいが居るんですって!」
「うわあ 怖い>< リヒタルゼンって怖いトコなの?」
「う~ん・・街の中にいる限りは大丈夫よ。
でもチンピラっていうガラの悪いのが現われたら絶対に目を合わせちゃダメ!
それからスリも一杯いるから気をつけて~」
それって街の中も危険がイッパイなんじゃ; 不安になってきたけど、とりあえず行ってきま~す!
ぎんはウキウキしながら、飛行船乗り場への橋を渡ります。入り口で、係りのお姉さんにチケットを見せました。
「本日はご利用ありがとうざいます~ こちら無料招待券ですね」
「リヒタルゼンまで行けますか?」
「リヒタルゼンは国際線ですので、ジュノーでお乗換え下さいね」 中に乗り込んですぐにハッチが閉められ 船がグゥィーンという唸り出しました。さあ出発です。
階段を下りて船内の窓から景色を眺めることにしました。イズルード中央市場の巨大テントが見えます。まもなくするとプロンテラの街が見えてきました。露天でにぎわう十字路もお城も小さく見えます。
お城だぁ ふぅん庭園って空から見ると、こうなってるんだ~ 景色は街を離れ山々に変わっていきます。緑のミョルニール山脈を越えて、荒野へと変わった頃 館内放送がジュノーへの到着を告げました。
ジュノーで乗り換え、ジュノーで乗り換え・・・? 空港を出たぎんは、乗り換えの飛行船を探してウロウロ。
「乗り換えは空港の中で行うんですよ お戻りください」 入り口の警備員さんが教えてくれました
ああシッパイしちゃった;
おまけに、中に戻るにはまたチケットが必要なんですって
空港に戻ろうとしたぎんは、入り口でたたずむお坊さんに気が付きました。なんだか迷っているようです。
「どーしたですか?なにか困ってるですか?('_'*)」
「布教の為に旅する修行僧なのですが、なにぶん貧乏な為に移動はすべて徒歩。
飛行船に乗れば多くの民に布教できるのですが・・・やはり貧乏なので・・・」
「そっかぁ大変なんだね? じゃあ このチケットどうぞ!」
「おお!よろしいのですか? これで多くの方に出会う事が出来ます。 どうぞあなたにも幸福が訪れますように・・・
ツルツルツーツーにゃむにゃ~む~」
へんな言葉;; 一礼をしてお坊さんは空港内へ去っていきました。
一枚になってしまった招待券を眺めて、ぎんはチョット心配になってきました。反対側の階段を上って、係員に何度も確認して、やっと国際線の飛行船に乗り込みます。
ふぅ~;
「リヒタルゼンまでは、だいぶ時間がございますので どうぞ船内でごゆっくりお楽しみください」 船内には大好きなアイスクリームを見つけたけど、売り子さんが見当らなくて残念!
近くのテーブルにとても可愛い服装の女の子が居ます。でも様子が変・・・
「どーしたですか?なにか困ってるですか?('_'*)」
「アタシ、林檎が食べたいの」
「それなら、ぎんが持ってる林檎をあげます」
「アラ、アタシはカジノで手に入る林檎が欲しーの。
どうしても、あそこの林檎が欲しいのよお」 指差す方向にはゲーム台とディーラーのお姉さんがいます
「じゃあ 林檎ゲームで取ってきてあげるね!」 四苦八苦しつつ何とかゲームに勝って、沢山の林檎を手にいれました。 おっと館内放送がリヒタルゼン到着を告げています
「ご苦労だったわねえ ところで、あなたのお名前は?」
「イズルードに住んでいるぎんいろのこねこよ さよなら~」 いよいよリヒタルゼンに到着です。
みんなが話していた通り、白い石畳と植物で整理された近代的な都市です。ぎんは、ここで初めて銀行という建物を見ましたよ。それから豪華なホテルをチョット拝見。噴水の前のベンチでお弁当を食べたり、宝石店に並んだ宝石をそっと眺めてみたり。
そして最後は、一番楽しみしていたデパートです。
ここではピエロさんが楽しい芸を見せてくれるんですって。ぎんは初めて入るデパートの看板を、口をあけて見上げてしまいました。と、急に・・・
とすん! グイッ! 「おおっと ごめんよ いひひ」 誰かが、一瞬だけぎんのカバンを引っ張って、風のように走りぬけていきました。
あッ! スリだと気付いたときには、もう姿が見当りません。ぎんは慌ててカバンやポッケを探りました。
大丈夫、大切なお金は盗まれていません。でも。。でも・・・
「飛行船のチケットが無くなっちゃったぁ」 ・・・・・・・
・・・・・
ションボリしたまま ぎんはデパートの中に入りました。
綺麗なお土産にも、楽しいピエロのおもちゃ屋さんにも、あんまりワクワクできません。
一番上の階に上がったら、あとはもう帰ろう・・・
うつむいたまま階段を上ったぎんの頭を、誰かがギュっと押さえつけました。男の人です。
「おぅ、この髪型はキミに とても似合っている! だが・・何かが足りない」 声にも驚いたけど、その男の人の髪の色にもびっくり!
なんてニギヤカな髪の色でしょう?
「一体何が足りないのか!うーん どうやら元気な笑顔が足りないようだな」 男の人は、ぎんを椅子に座らせるとクルンと回転させました。
「女の子がそんな悲しい顔をしていてはイカン! どれどれ この天才美容師に任せなさい」 美容師さんはチョチョイのパっと、ぎんの髪の毛を束ね始めました。
「フンフンフ~ン♪ さあ、これで完璧、完成!」 「さあ可愛いリボンだぞ。うん、我ながら上出来だ!」 鏡に映った自分の姿に、ぎんは目を見張りました。頭の後ろに、大きくて赤いリボンが乗っています。
「まぁ とっても可愛い♪」 アシスタントのお姉さんも手を叩いて褒めてくれます。何だかションボリしぼんでた心が、ふんわかはずんできましたよ。
「あ、ありがとです~」
「ん? 元気が出てきたな? またおいで」
またおいで・・・かぁ(^^*) ほっぺたを大きな手で鷲掴みされ、ぎんはニコニコをうなづきました。
いろんな人達に出会えるお出掛けって、チョット素敵かも・・って。 イズルードに戻ったぎんをお客さんが待っていました。
「当家のお嬢様が、船の中で大変お世話になりましたようで・・・
これは、お礼の飛行船チケットです。どうぞお受け取り下さいませ」 執事さんが渡してくれたのは、四枚綴りの飛行船チケットでした。
夜になると、今度は遠方の狩りからモンお姉ちゃんが戻ってきました。
「今日、飛行船に乗ったら お坊さんが居てね
あなたもツルピカ教に入信しませんか?って布教活動してるの
ツルツルツーツーだって。ホント驚いたよ
ぎん、アンタ知ってた??」
「う、う~ん(^^*)」 そのコトは ちょっと内緒にしておこーかな・・